囲繞地(いにょうち)とは、他の土地に囲まれて公道に面していない土地を指します。
民法では囲繞地の通行権が認められていますが、刑法では囲繞地を許可なく通行した場合、住居侵入罪となってしまうかもしれません。
今回は囲繞地の民法と刑法での定義の違いや、囲繞地に関する刑法にはどのようなものがあるのかをご説明します。具体的な過去の事例をご紹介しますので、どのような時に建造物侵入罪となってしまうのかを確認していきましょう。
目次
民法と刑法での囲繞地の違い

囲繞地(いにょうち)とは、他の土地に囲まれており、公道に通じていない袋地を囲んでいる土地を指します。一般的な解釈はこのようになっていますが、厳密には民法と刑法では定義が異なります。囲繞地が民法と刑法でどう異なるのかを解説します。
民法上での囲繞地
民法上の囲繞地とは、「他の土地に囲まれ公道に面していない土地(袋地)にとって、その土地を囲んでいる土地」を指します。つまり、民法の意味は一般的な解釈と相違がないといえます。袋地にある住宅は囲繞地を通らなければ公道に出られなくなってしまいますので、民法210条によりは囲繞地の所有者が囲繞地通行権の負担を負うと定められています。
刑法上での囲繞地
刑法上の囲繞地とは、「柵等で周囲を囲んでいる土地」を指します。刑法上は建物内に侵入していなかったとしても、囲繞地に侵入すれば刑法130条により住居侵入罪や建造物侵入罪が成立するとされています。
刑法上では、土地に侵入されることで住居・建物利用の平穏が害されたと判断されるためです。ただし裁判では、建物の設備や管理の状態などにより、総合的に判断されます。
そもそも民法と刑法とは
民法と刑法では囲繞地について意味の違いがありますが、そもそも民法と刑法の違いとは何なのか確認しておきましょう。
民法とは、私人と私人の関係性を規律する法律です。
一方、刑法とは、国家と個人の関係性を規律する法律です。
具体的にいうと、民法は日常的な取引や金融取引、各種契約、財産等を規律するものです。警察官は民事不介入とされており、民事事件は対等な当事者同士で解決すべきものとされています。
刑法は刑罰を科せられる犯罪となりますが、民法を犯しても逮捕されたり、国に罰金を払ったりする必要はありません。
民法上の囲繞地通行権について

袋地の所有者は囲繞地を通らないと公道に出られませんので、民法では囲繞地の通行が可能になる囲繞地通行権が認められています。しかし、囲繞地通行権が認められればどんな通行でも可能になるわけではありません。囲繞地通行権における通行の範囲や態様について、ご説明します。
囲繞地通行権の自動車利用
袋地の所有者が公道に出入りできるようにするため、民法では囲繞地通行権が認められています。囲繞地通行権は民法210条で認められた権利であり、囲繞地の所有者は囲繞地通行権の負担を負うと定められています。
袋地の所有者は囲繞地の所有者に都度確認をとる必要なく、囲繞地を通行できます。ただし囲繞地通行権は、囲繞地の所有者に対し最小限の損害に留めるものとされています。
そのため囲繞地を自動車で通行することは、囲繞地の所有者の大きな損害になると考えられることから基本的に認められていません。自動車利用が可能になる場合もありますが、囲繞地通行権は歩行か自転車で通る程度の通行権になると覚えておきましょう。
囲繞地通行権の契約内容
囲繞地通行権を得るためには、囲繞地の所有者と袋地の所有者で契約を交わします。
以下のような内容をきちんと明記して、後にトラブルがないようにしておきましょう。
- 位置や幅といった通行権の範囲
- 通行可能な時間帯
- 徒歩や自転車といった通行する態様
- 通行可能な期間
- 通行料
双方で見解が異なる場合には、訴訟により裁判所が定めるという方法もあります。一般的には、囲繞地の所有者の意見が尊重され、かつ、過去の通行実績が維持されます。
囲繞地所有者に支払う通行料
民法212条により、袋地の所有者は囲繞地の所有者に通行料を支払う義務があります。囲繞地の所有者は、袋地の所有者の通行により損害が生じるため、その対価として通行料を支払います。
一年に一回の支払いが慣例となり、金額は近隣の駐車場料金などの相場が参考にされます。具体的な通行料は、囲繞地の所有者と袋地の所有者との協議により決定します。
囲繞地に関する刑法

刑法では囲繞地は柵などで囲われた土地を指し、その土地に侵入するだけで罪に問われる可能性があります。囲繞地に関係する刑法について、ご説明します。
- 住居侵入罪(刑法第130条前段)
- 邸宅・建造物侵入罪(刑法第130条前段)
- 不退去罪(刑法第130条後段)
- 住居侵入等未遂罪(刑法第132条)
住居侵入罪(刑法第130条前段)
住居侵入罪とは、正当な理由なく他人の所有する住居等に侵入した場合に成立し、屋内に限らず屋根や庭も住居侵入罪となります。また、ホテルの客室のように寝泊りが予定されている場所は「住居」と解されます。
邸宅・建造物侵入罪(刑法第130条前段)
邸宅・建造物侵入罪とは、正当な理由なく人が看守する邸宅や建造物に立ち入った場合に成立します。住居侵入罪、邸宅侵入罪、建造物侵入罪は、侵入する建物の種類や状態により区別されます。邸宅は日常的には使用されていない住居を指し、具体的には別荘や空き家が該当するのに対し、建造物とは住居や邸宅以外の建物を指します。
管理人のように看守が在中していなくても、施錠されている事実が認められれば、人が「看守している建造物」となります。
不退去罪(刑法第130条後段)
不退去罪とは、退去の要請を受けたにもかかわらず、人の住居や看守する邸宅や建物、艦船から退去しない場合に問われる罪です。正当な理由なく住居に立ち入ると住居侵入罪となり、不退去罪は立ち入る行為そのものが犯罪ではない場合に成立します。退去を求められ、退去するために必要な時間が経過しても居座っている時点で不退去罪が成立します。
住居侵入等未遂罪(刑法第132条)
住居侵入等未遂罪とは、住居に侵入する等の犯罪行為に着手した時点で成立します。具体的には「他人の家の塀をよじのぼろうとしていた」「鍵を開けようとしていた」という場合に成立します。
住居侵入の未遂犯となり、裁判所の裁量により刑罰が軽減される可能性があります。しかし現行犯でない限り、住居侵入の未遂の証拠が明らかにならないケースも多く、適用される機会は多くありません。
囲繞地が建造物侵入罪に含まれた事例

囲繞地への侵入が建造物侵入罪に問われるかを判断するには、過去の事例を確認してみるといいでしょう。似たような事例であっても、建造物侵入罪が成立したものとしなかったものがあります。
建物の敷地が囲繞地ではなく、建造物として扱われるのかは、事案によって判決が異なるようです。以下のような事例をご紹介します。
- 工場の囲繞地に侵入した事例|最高裁判決(昭和51年3月4日)
- 駅構内侵入の囲繞地性が否定された事例|山口地裁判決(昭和36年12月21日)
- 駅構内侵入で建造物侵入罪が成立した事例|福岡高裁判決(昭和41年4月9日)
- 小学校校庭の囲繞地性が争われた事例|東京高裁判決(平成5年7月7日)
- 自動車学校の敷地内に侵入した事例|広島高裁判決(昭和52年2月10日)
工場の囲繞地に侵入した事例|最高裁判決(昭和51年3月4日)
隠退蔵物資などの摘発を目的として、工場敷地内に侵入した事案をご紹介します。こちらの工場は、門塀を設け、守衛警備員等を置いており、正当な理由のない外部者がみだりに出入りできない状態でした。
被告人は警備員の静止を押し切って暴力的に工場内に侵入しています。このような記録があったため、人の看守する建造物であると認められ、建造物侵入罪が成立しました。
駅構内侵入の囲繞地性が否定された事例|山口地裁判決(昭和36年12月21日)
駅構内は駅の囲繞地になるのか、駅構内に侵入して建造物侵入罪が成立するかが争われた事例があります。
昭和36年12月21日の山口地裁判決では、小郡駅は「外部との交通を制限するような囲障その他設備がない」として囲繞地性が否定されました。小郡駅が人の看守する建造物として認められるのかが争点となりましたが、囲障をめぐらせた外部との交通を制限するような設備はないと認められました。
駅構内侵入で建造物侵入罪が成立した事例|福岡高裁判決(昭和41年4月9日)
一方、昭和33年6月10日に札幌高裁では、上記の山口地裁の判決を覆す判決が下りました。旭川駅構内に侵入した行為に、建造物侵入罪が成立したものです。
昭和41年4月9日の福岡高裁でも、国鉄八千代駅構内に侵入した事例に建造物侵入罪が成立するとしました。国鉄八千代駅は本屋や鉄道公安官室、倉庫、鉄郵室等の建物が立ち並び、これらは一体をなして駅舎を構成するものであると判断され、人が看守する建造物と認められました。
小学校校庭の囲繞地性が争われた事例|東京高裁判決(平成5年7月7日)
建物ではない小学校の校庭に侵入した事例で、校庭は囲繞地なのか、人が看守する建造物になるのか、という点が争点になりました。裁判では「囲繞地として部外者がみだりに出入りできない場所」さらに教頭など人が管理できる建造物として、人の看守する建造物として認められました。
小学校の校庭は囲繞地ではなく、人の看守する建造物として建造物侵入罪が成立するとしました。
自動車学校の敷地内に侵入した事例|広島高裁判決(昭和52年2月10日)
広島高裁で自動車学校の敷地内に侵入し、建造物侵入罪が成立すると認められた事例があります。自動車学校は建物だけでなく、自動車練習コース敷地が主体です。これらの施設は校舎等建物に付属したものであり、一般立ち入りが禁止された状況であったと認められ、建造物侵入罪が成立しました。
この自動車学校や小学校の事例のように、常に囲障の内側が囲繞地と認定されるわけではありません。施設の目的や状態などにより、事例によって適切に判断されます。
まとめ

画像引用元:訳あり物件買取センター
囲繞地(いにょうち)とは、他の土地に囲まれており、公道に通じていない袋地を囲んでいる土地を指します。民法上では、袋地を所有する人には囲繞地通行権が認められ、通行が可能となります。しかし刑法上では、囲繞地に侵入すれば住居侵入罪および建造物侵入罪が成立します。囲繞地はトラブルの元になることがあり、売却するにしても扱いが難しいという懸念があります。もし売却を検討している場合は専門知識を有した不動産会社に相談することをおすすめいたします。
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