違法建築と既存不適格では定義が明確に異なり、要因もさまざまです。中には再建築不可となっているケースもあり、取り扱いに困っている所有者の方もいるかもしれません。
今回は違法建築と既存不適格の違いや再建築不可などの法令違反となる要因、違法建築や既存不適格の建物を売却するための方法について解説します。
目次
違法建築と既存不適格の違い

違法建築と既存不適格の定義には明確に違いがあるとお伝えしました。まずはその定義の違いについて詳しくご説明します。
違法建築とは
建設当初から建設基準法や条例に反している建築を指します。現在では建物の建築工事が完了した際に法令に適合しているかを検査する義務(完了検査)がありますが、この完了検査が義務化されたのは平成11年であり、それ以前に建てられた物件では完了検査を受けていない建物もあります。
そのため、なかには建設当初から法令に違反していながらも、そのままになっている建物があります。完了検査の概要についてはこちらをご参照ください。
既存不適格とは
建築時には法令に適合していたものの、法改正により違反となってしまった物件を指します。現行の法律基準を満たしておらず、設備や構造面の安全性に問題がありますが、原則的に継続利用することが認められています。
つまり違法建築との違いは、建築の時点で合法であったか否かという点が大きなポイントです。
違法建築や既存不適格となる要因

違法建築や既存不適格となってしまう要因は以下のようなケースがあります。
- 建ぺい率や容積率がオーバーしている
- 用途が違反している
- 接道義務を満たされていない
- 斜線制限が守られていない
- 絶対高さ制限がオーバーしている
- 採光不良である
- 耐震基準が満たされていない
- 無届で増築をしている
それぞれ詳しくご説明します。
建ぺい率や容積率がオーバーしているケース


建ぺい率とは、敷地面積を真上から見た時の建物の割合を指し、容積率は敷地面積に対する建物の延床面積を指します。それぞれの比率は用途地域別でパーセンテージが決まっており、都道府県によっても数値は異なります。以下はそれぞれの目安です。
用途地域 | 建ぺい率 | 容積率 |
---|---|---|
第一種低層住居専用地域 | 30~60% | 50~200% |
第二種低層住居専用地域 | 30~60% | 50~200% |
第一種中高層住居専用地域 | 30~60% | 100~500% |
第二種中高層住居専用地域 | 30~60% | 100~500% |
第一種住居地域 | 50~80% | 100~500% |
第二種住居地域 | 50~80% | 100~500% |
上記図のように、建ぺい率は建物を真上から見た時の面積÷敷地面積に100をかけた数値(%)、容積率は延床面積÷敷地面積に100をかけた数値(%)で求めることができます。この割合内に収まっていない建物は法律に適合していない建物ということになります。用途地域は自治体の都市計画図で確認することができ、インターネット上でも調べることが可能です。
用途を違反しているケース
「用途地域」には利用用途についても規定があり、具体的には用途地域別に以下のような規定があります。
用途地域 | 用途 |
---|---|
第一種低層住居専用地域 | 低層住宅のための地域であり、小規模な店舗や事務所、住宅、小中学校などが建てられる |
第二種低層住居専用地域 | 主に低層住宅のための地域であり、小中学校などのほか、150㎡までの一定の店舗などが建てられる |
第一種中高層住居専用地域 | 中高層住宅のための地域であり、病院や大学、500㎡までの一定の店舗などが建てられる |
第二種中高層住居専用地域 | 主に中高層住宅のための地域であり、病院や大学のほか、1,500㎡までの一定の店舗などが建てられる |
第一種住居地域 | 住居の環境を守るための地域であり、3,000㎡までの店舗やホテルなどは建てられる |
第二種住居地域 | 主に住居の環境を守るための地域であり、10,000㎡までの店舗や施設などは建てられる |
この規定は市街地の環境を保全するために設けられており、上記の用途に適していない建物は法律に適合していないということになります。
接道義務を満たしていないケース

建築基準法により「幅員4m以上の道路に敷地が2m以上接していなければならない」という接道義務があります。この接道義務は1950年に制定されたため、それ以前に建築された建物の中には接道義務を満たさない「再建築不可」が存在します。
再建築不可は建物ではなく土地に対しての呼称ですが、再建築不可の土地にある建物は違法建築に該当し、一度解体してしまうと再建築ができなくなってしまいますので、注意が必要です。
斜線制限を守っていないケース

斜線制限とは、道路や隣地の日照権の確保や風通しの良い住環境を守る目的で定められており、隣地との境界線や道路境界線からの距離に応じて建物の高さを制限するものです。建物の建築をする際には、この斜線制限のルールに沿った高さの建物にする必要があると定められています。
絶対高さ制限をオーバーしているケース

絶対高さ制限とは、戸建てエリアに高い建物を建てないために決められている制限であり、第一種低層住居専用地域では10m、第二種低層住居地域では12mと定められています。建築時には制限内の高さであったとしても、用途地域の変更などにより絶対高さ制限をオーバーしてしまうというケースもあります。
採光不良であるケース

建築基準法第28条において、住宅の各部屋には採光できる開口部(窓)を設けなくてはならないと定められており、必要な開口部(窓)の面積は部屋の床面積に対して「1/7以上」でなければ採光不良ということになります。
耐震基準を満たしていないケース
耐震基準は1981年6月に改正され、それ以前の耐震基準は旧耐震、以降が新耐震と呼ばれています。それぞれの耐震基準には以下のような違いがあります。(参照:国土交通省『Ⅰ 住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題』)
- 旧耐震基準:震度5強程度の揺れに対して家屋の倒壊・崩壊が起こらない基準
- 新耐震基準:震度6強~7程度の揺れに対して家屋の倒壊・崩壊が起こらない基準
これにより、1981年6月以前に建てられた旧耐震の建物は既存不適格となり、改正以降の建物で新耐震基準を満たしていない建築は違法建築となります。
無届で増築をしているケース
届出をださずに増築をしている場合も、建ぺい率や容積率などの点から法令に適合していない可能性があります。物置小屋やカーポートの設置なども建ぺい率の計算に含まれますので、申請せず後から増設した場合には法令違反となる可能性がありますので注意が必要です。
是正命令の有無について

「建築物を法令に適合させるよう対処せよ」といった是正命令に関しては、違法建築と既存不適格の物件ではその有無が異なります。以下、それぞれ詳しく解説します。
違法建築物の場合
違法建築物であると判明した場合、以下のような是正命令を受けます。
- 建物の使用禁止、使用制限
- 建物の取り壊し、移転、修繕、改築など
違法建築物を所有しているだけでは罪に問われることはありませんが、上記のような是正命令を受けたにも関わらず、対応しない場合は刑事罰が科せられます。また、是正が完了するまでは電気・ガス・水道などといったインフラ設備が停止されることもあり、実質生活することができなくなる可能性もありますので早急に対処するようにしましょう。
なお、是正命令に対する責任は、物件の所有者だけでなく、物件を建てた施工業者も担います。当事者で話し合いを行い、対策する必要があります。
既存不適格の場合
違法建築物とは異なり、既存不適格物の場合は基本的に是正命令を受けることはありません。ただし、倒壊の危険性や健康被害などの有害性があると判断された場合には、既存不適格物であっても違法建築物と同様に取り壊し命令などの是正命令を受けることがありますので、注意が必要です。
また、大規模な増改築や修繕を行う場合、是正義務として、現行の建築基準法に適用しなければなりません。
違法建築や既存不適格かどうか調べる方法

違法建築や既存不適格の建物か否かを調べることができる書類は以下の通りです。
- 建築確認証、検査済証
- 建築確認台帳記載事項証明
- 登記簿
- 現況調査チェックリスト
それぞれ詳しくご説明します。
建築確認証、検査済証
建築確認証は建築を行う際に必要な書類であり、検査済証は建築後の検査を受けたことの証明書類であることから、これらの書類が確認できれば少なくとも違法建築ではないと判断ができます。
建築確認台帳記載事項証明書
前述の建築確認証や検査済証を紛失してしまっている場合、役所で建築確認台帳記載事項証明書を発行してもらい、建築確認日と検査済日が確認できれば、違法建築ではないと判断できます。検査済証の日付の記載がないものは、検査を受けていない違法建築の可能性があります。
登記簿
法務局で取得できる登記簿を確認することで無届けの増築の有無を判断することができます。登記簿に載っていない部分がある場合は違法に建築している可能性が高いと言えます。
現況調査チェックリスト
現行の建築基準法に適合しているかを確認することができるものであり、それぞれの市町村ごとで項目は異なります。この書類を確認することで既存不適格の建物であるかを判断することができますが、調査項目が多く専門知識も必要であることから専門業者に依頼をすることが一般的です。
違法建築物や既存不適格建築物は売却しにくい

違法建築物や既存不適格建築物であっても、買い手にその旨を告知すれば売却をすることが可能ですが、個人相手に売却することは難しいといわれています。売却しにくい主な理由は以下のようなものがあげられます。
- 建て替えができない
- 住宅ローンが通らない
- 購入希望者が少ない
それぞれ詳しくご説明します。
再建築ができない
前出の「違法建築や既存不適格となる原因」でお伝えしたように接道義務を満たしていないケースでは再建築不可となりますので、個人への売却が難しくなる傾向にあります。
住宅ローンが通らない
既存不適格建築物の場合、金融機関の住宅ローン審査が通らないことがほとんどです。違法建築物に至っては、住宅ローンを使うこともできません。住宅を購入する方の大半は住宅ローンを利用することから、売却は難しくなります。
購入希望者が少ない
違法建築や既存不適格であることは基本的にマイナス要因であるため、購入希望者自体が少なく、売却が難しい原因となってしまいます。
違法建築物や既存不適格建築物を売却する方法

売却しにくいといわれる違法建築物や既存不適格建築物であっても、以下のようなポイントを抑えれば売却できる可能性があります。
- 現金購入が可能な相手を探す
- 建物を取り壊して売却する
- 法律に適合していない要因を解消する
- 不動産業者に買い取ってもらう
それぞれ詳しくご説明します。
現金購入が可能な相手を探す
前述のように違法建築物や既存不適格建築物は住宅ローンを組むことが難しいため、現金購入が可能な相手を探す必要があります。ただし、一般的に相場よりも安い金額設定となる上に現金で購入してくれる買い手を探す場合には、販売価格は低くなると考えられます。
建物を取り壊して売却する
建物を取り壊すことによって違法建築や既存不適格ではなくなる場合、更地にしてから売却することで買い手がつく可能性が高まります。ただし、前述のような再建築不可物件の場合は解体してしまうと再建築を行えないので注意が必要です。
法律に適合していない要因を解消する
法律に適合していない要因をあらかじめ解消しておくことで、買い手がつく可能性が高まります。ただし、要因を解消するにあたっては高額な費用がかかる場合もありますので、売却金額との兼ね合いを考慮することが大切です。また、要因の解消には専門的な知識も必要となりますので、まずは専門知識のある不動産会社などに相談するとよいでしょう。
不動産会社に買い取ってもらう
前述したように違法建築や既存不適格の建物は個人への売却が難しく専門的な知識も必要なため、不動産会社に買い取ってもらうことがおすすめです。違法建築物や既存不適格の建物のほか「再建築不可」の物件でも買取を行ってくれる不動産会社もありますので、買取依頼をしてみてはいかがでしょうか。
まとめ

画像引用元:訳あり物件買取センター
違法建築物は建築当初から法令に違反している建物であり、既存不適格建築物は法改正などの何らかの理由により現時点で法令に違反している建物という定義の違いがあります。これらの建物は売却時にマイナス評価となり売却が困難となるケースが多くあるため、売却を考える際には専門の不動産会社に相談することをおすすめいたします。
訳あり物件買取センターでは、「再建築不可」物件の買取実績が多数ございます。ぜひお気軽にお問い合わせください。