相続によって引き継いだ不動産は、維持費や管理の負担が発生します。
そのため、「相続した不動産の売却を検討したい」と考える方も少なくありません。しかし、相続した不動産の売却には、名義変更の手続きや税金、控除の適用など複雑な流れが伴います。中には、「何から始めればいいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産の相続から売却までの手続き方法や必要な税金、注意すべきポイントをわかりやすく紹介します。
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虎ノ門桜法律事務所 / 代表弁護士伊澤 大輔経歴:
2001年弁護士登録。虎ノ門桜法律事務所代表弁護士。
不動産会社(売買、賃貸、仲介、管理、共有物分割、競売等)等、顧問先多数。
元暴力団追放運動推進都民センター相談委員、同センター不当要求防止責任者講習講師。 -
宅地建物取引士杉本 英紀経歴:
2000年より不動産業に従事。2004年に宅地建物取引士を取得。
借地権にとどまらず、再建築不可、私道持分なし、道路未接道、事故物件、収益ビル、倉庫、アパート、マンションなど、全ての訳アリ物件に愛された男。
訳アリ物件のエキスパート、ブリリアント杉本。
趣味はバイクツーリング。どんな悪路でも物件見に行けます。
目次
不動産の相続から売却までの流れ
相続した不動産を売却するには、相続の発生から名義変更、業者依頼、契約、引き渡しまで、順を追って手続きを行う必要があります。
ここでは、売却までの一連の流れをステップごとに説明します。
【ステップ1】相続の発生
相続が発生したら、まず最初に行うべきは被相続人の財産を確認し、相続人を特定することです。
戸籍謄本などをもとに法定相続人を確定し、不動産登記事項証明書を取得して不動産の状況を把握します。公正証書遺言がある場合は原則としてその内容に従い、それ以外の遺言書が見つかった場合には、家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。
相続人全員で財産の把握を行い、次の遺産分割協議に進むための準備を整えることが重要です。
早めに専門家へ相談しておくと、後の手続きがスムーズに進みます。
【ステップ2】遺産分割協議
不動産を相続するにあたっては、まず相続人全員で集まり、財産をどのように分けるかを話し合う必要があります。
全員の同意がなければ売却手続きは進められません。協議では、不動産を誰が名義上引き継ぎ、売却後の代金をどのように分配するかを明確にします。話し合いの内容は「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名・実印を押して正式な書類とします。
この書類は後の名義変更や登記手続きに不可欠です。
相続人が遠方に住んでいる場合や、意見の食い違いがある場合には、司法書士や弁護士に同席してもらうとスムーズに進みます。
【ステップ3】名義変更
不動産を相続したら、次に必要なのが名義変更(相続登記)です。
相続人の誰が不動産を所有するかを明確にし、法務局で登記手続きを行います。遺産分割協議書や戸籍謄本、住民票など必要書類を揃え、申請することで名義が正式に変更されます。
なお、2024年4月1日以降、相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に手続きを終えないと過料の対象となるため注意が必要です。
早めに手続きを進めることが、トラブル防止やスムーズな売却につながります。
【ステップ4】不動産業者に売却依頼をする
名義変更が完了したら、不動産会社に売却を依頼します。
まずは複数の業者へ査定を依頼し、査定額のほか担当者の対応や販売戦略も比較しましょう。媒介契約には「専属専任」「専任」「一般」の3種類があり、売却スピードや自由度に違いがあります。
| 契約の種類 | 特徴 | 売主の自由度 | 業者の報告義務 |
|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 1社のみに依頼可能。自分で買主を見つけても業者経由で契約が必要。 | 低い | 1週間に1回以上の報告義務あり |
| 専任媒介 | 1社のみに依頼可能。自分で見つけた買主と直接契約可能。 | 中程度 | 2週間に1回以上報告 |
| 一般媒介 | 複数の業者に同時依頼可能。最も自由度が高い。 | 高い | 報告義務なし(任意) |
信頼できる業者を選ぶことで、スムーズな販売活動が期待できます。
契約後は広告掲載や内見対応などを業者が担当し、購入希望者を見つけていく流れです。
【ステップ5】売買契約を結ぶ
購入希望者が見つかったら、条件を調整したうえで売買契約を結びます。
売買契約書には、販売価格や引き渡し日、手付金の金額、契約解除の条件などが明記されます。記載内容に誤りがないかを事前に確認し、納得のうえで署名・押印しましょう。契約時には印紙税の納付が必要で、通常は不動産会社が立ち会い、手付金の受け渡しが行われます。
不明点があれば、契約前に必ず担当者や専門家へ確認することが大切です。
【ステップ6】残金決済をする
売買契約を締結したら、次に残金決済を行います。
決済は通常、買主が残りの代金を支払い、売主が不動産の所有権を正式に移転する場で行われます。多くの場合、銀行で不動産会社や司法書士が立ち会い、同時に登記申請や固定資産税の清算、鍵の受け渡しなども進めます。残金が振り込まれたら、取引は完了です。
書類の内容や振込金額に誤りがないか、必ずその場で確認しましょう。
【ステップ7】引き渡し
引き渡しが完了すれば、不動産の売却手続きはすべて終了です。
売主は買主に鍵を渡し、引き渡し確認書に双方が署名・押印して正式に引き渡します。物件の状態や設備が契約内容と異なる場合は、トラブルになるおそれがあるため、事前に点検を行いましょう。
引き渡し後は、売却益が出た場合に譲渡所得税の申告が必要です。
相続した不動産の売却でかかる税金
相続した不動産を売却すると、売買契約時や利益が出た場合に税金が発生します。
ここでは、主に関係する印紙税と所得税・住民税について説明します。
印紙税
印紙税は、不動産の売買契約書を交わす際に課される税金で、契約書に記載された売買金額によって税額が決まります。
| 契約金額(売買価格) | 軽減税率
(令和8年3月31日まで) |
本則税率 |
|---|---|---|
| 10万円を超え〜50万円以下 | 200円 | 400円 |
| 50万円を超え〜100万円以下 | 500円 | 1,000円 |
| 100万円超〜500万円以下 | 1,000円 | 2,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 | 1万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 | 2万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 3万円 | 6万円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 6万円 | 10万円 |
| 5億円超〜10億円以下 | 16万円 | 20万円 |
| 10億円超〜50億円以下 | 32万円 | 40万円 |
| 50億円超 | 48万円 | 60万円 |
出典:国税庁「不動産の売買契約書に係る印紙税の軽減措置」
契約書が2通ある場合は、売主・買主双方がそれぞれ印紙を貼らなければなりません。貼付した印紙の上には、消印をして使用済みの証明を行います。
印紙税は法的に義務付けられているため、未納のまま契約を結ぶと過怠税が課される場合があります。
なお、平成26年4月1日から令和8年3月31日までの間に作成される不動産売買契約書については、軽減措置が設けられています。
所得税・住民税
相続した不動産を売却して利益が出た場合、その利益は「譲渡所得」として所得税と住民税の対象になります。
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて算出し、課税額は所有期間によって以下のように変わります。
| 所得税 | 住民税 | |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得(5年を超える場合) | 15% | 5% |
| 短期譲渡所得(5年以下の場合) | 30% | 9% |
出典:国税庁「土地や建物を売ったとき(譲渡所得の課税)」
5年を超える場合は「長期譲渡所得」で約20%、5年以下の場合は「短期譲渡所得」で約39%の税率が適用されます。
なお、被相続人が不動産を所有していた期間も通算されるため、長期譲渡に該当するケースが多いです。
相続した不動産の売却に使える控除
相続した不動産を売却して利益が出た場合にかかる譲渡所得税を軽減するため、特定の要件を満たせば適用できる特例がいくつかあります。
ここでは、「3,000万円特別控除」、「小規模宅地等の特例」、「取得費加算の特例」をそれぞれ紹介します。
3,000万円特別控除
この特例は、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」と呼ばれ、相続した実家が一定の要件を満たす空き家である場合に適用されます。
譲渡所得から最高3,000万円を控除し、譲渡所得税の負担を大幅に軽減します。主な適用要件は以下の通りです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物(マンションなど)でないこと
- 相続開始の直前において、被相続人以外の者が居住していなかったこと
出典:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
また、家屋を取り壊して更地として譲渡する場合や、一定の耐震基準を満たしたうえで譲渡する場合も対象となります。
小規模宅地等の特例
この特例は、被相続人(亡くなった人)の自宅や事業に使われていた宅地について、一定の面積までの評価額を大幅に減額する制度です。
特に居住用宅地(特定居住用宅地等)は最大80%評価減となり、相続税の納税額が大きく軽減されます。ただし、不動産売却時の譲渡所得税を直接控除するものではありません。
また、宅地を取得した相続人が、配偶者であるかや、一定の居住継続要件などを満たす必要があります。
取得費加算の特例
この特例は、相続または遺贈により取得した財産を、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡した場合に適用できます。
その不動産を売却した際に納付した相続税額のうち、一定の金額を、譲渡所得の計算における取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで譲渡所得が減少し、結果的に譲渡所得税が軽減されます。
特例の適用には、相続税を実際に納付していることが要件です。
相続した不動産を売却する際の注意点
相続した不動産の売却は、通常の不動産取引と異なり、税金面や名義、権利関係など、相続特有の手続きや知識が求められます。
ここでは、売却をスムーズに進め、税制上の優遇を最大限に活用するために特に注意すべき点を解説します。
信頼できる不動産会社を選ぶ
相続不動産の売却は、名義変更や複数の相続人との意見調整、特例適用に向けたスケジュール管理など、通常の売却にはない複雑な要素を多く含みます。
そのため、相続不動産の取扱いや税制に精通し、必要に応じて税理士など専門家と連携できる信頼性の高い不動産会社を選ぶことが重要です。
査定額の高さだけでなく、担当者の専門性や対応力を複数の会社と比較し、売却を任せられるパートナーを見つけましょう。
相続してから3年以内の売却が望ましい
相続した不動産の売却では、譲渡所得税を軽減するための取得費加算の特例や3,000万円特別控除といった税制優遇の特例が利用できます。
これらの特例の多くは、相続開始から3年以内に売却することが適用要件となっています。
節税効果を最大限に得るためには、これらの期限を意識して、遺産分割協議や売却活動を計画的に進めることが望ましいです。
共有名義の家は全員の同意が必要になる
相続した不動産が複数の相続人による共有名義となっている場合、その不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。
売却価格や時期について一人でも反対する人がいると、売却活動を始めることができません。また、売却決定後も、媒介契約や売買契約など重要な手続きのたびに全員の署名・捺印が必要になります。
売却前に遺産分割協議で売却の意思と代金の分配方法について、名義人全員の合意を確実に得ておく必要があります。
取得費は引き継がれる
相続した不動産を売却する際、譲渡所得税を計算するために使用する取得費は、相続人が引き継ぎます。
自分が相続した時点の時価ではなく、被相続人が実際に支払った購入価格や建築費を用いる点に注意が必要です。特に古い不動産の場合、購入時の金額が低いため、売却額との差額である譲渡所得が大きくなり、結果として高額な譲渡所得税が課税されやすくなります。
もし取得費の記録がない場合は、売却価格の5%を取得費とみなすことになり、さらに譲渡所得が大きくなる可能性が高いです。
税負担を軽減するためには、相続税を納付している場合に「取得費加算の特例」の適用を検討することが重要となります。
まとめ
相続不動産の売却は、遺産分割や名義変更を経て、税制特例を考慮しながら進める必要があります。
譲渡所得税を軽減する「3,000万円特別控除」や「取得費加算の特例」の適用には相続開始から3年以内の売却が目安です。
また、共有名義の場合は全員の同意が不可欠であり、信頼できる不動産会社選びが重要です。
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