借地権に関するトラブルは、契約者や相続人に深刻な影響を及ぼす可能性があります。本記事では、借地権トラブルが起こる要因から、更新・売買・相続時に発生しやすいトラブル事例まで、幅広く解説します。
借地権人や借地権の取得を考えている方にとって、トラブルを未然に防ぎ、適切に対処するための情報源となるため、ぜひ参考にしてください。
目次
借地権のトラブルが起こる原因

借地権の発生する土地は、地主(土地所有者)と借地人(借地権者)で成り立っています。それぞれ立場が異なることから、時に利害が対立し、各種トラブルが発生しやすい状況が生まれ ます。
以下の表は、地主と借地権人 それぞれが抱えやすい不満をまとめたものです。
立場 | 抱えやすい不満 |
---|---|
地主 |
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借地人 |
|
地主側には「土地を有効活用したい」という計画があり、借地権人側には「安定して土地を利用し続けたい」という希望があり、双方の対立を生むことがあるのです。また、長期にわたる契約であるがゆえに、社会経済状況の変化や世代交代などによって、当初の契約条件が現状にそぐわなくなることも多々あります。
さらに、借地権に関する法律が複雑で、双方の権利義務関係が明確でない場合もあり、トラブルを助長する要因となっているのです。ここからは、具体的なトラブル事例とその対処法について詳しく見ていきましょう。
借地権の更新時に発生しやすい7つのトラブル事例

借地権の更新時に発生しやすいトラブルの事例は以下の通りです。
- 契約にない更新料を求められる
- 借地権の更新を拒否される
- 借地権の維持費用が払えない
- 契約期間が満了し借地の返還を要求される
- 更新後は新法の借地権に変更すると言われる
- 地主から地代や更新料の値上げを要求される
- 地主から立ち退きを要求される
これらの事例を理解することで、トラブルに適切に対処できるでしょう。また、トラブルを起こさないために事前にできることも明確になります。具体的なトラブル事例とその対応策について、それぞれ解説します。
契約にない更新料を求められる
借地権の更新時に、契約書に記載のない更新料を突然要求されるケースがあります。例えば、長年利用してきて初めて要求される場合や、過去に支払ってしまった経緯があるために再度要求される場合などです。
対処法としては、まず契約書を確認し、更新料の記載の有無を確認することです。記載がなければ、原則支払う義務はありません。地主との丁寧な交渉を行い、不当な要求には応じない姿勢を示しましょう。
交渉が難航する場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。更新料支払いに合意する場合は、金額や条件を明確にした合意書を作成し、将来のトラブル防止に努めることが重要です。
借地権の更新を拒否される
地主から借地権の更新を拒否されるケースがあります。しかし、借地借家法によって借地人の権利は保護されており、借地人から更新の申し出があった場合、地主は「正当事由」がない限り原則的に更新を拒否できません。
具体的には、地主自身がその土地に住まなければならない場合や、土地の利用状況が契約時と明らかに変わっている場合などです。
そのため、まずは地主が拒否をする理由を確認しましょう。正当事由でないにもかかわらず、借地権の更新を拒否し続ける場合は、弁護士などの専門家に相談し、調停や訴訟も検討する必要があります。
借地権の維持費用が払えない
借地権には以下のような費用がかかるため、維持費用が支払えなくなってしまう場合もあります。
- 地代:借地権人が土地所有者(地主)に支払う土地の使用料
- 固定資産税:建物に対する固定資産税(毎年)
- 更新費用:更新時に支払う費用
- 解体費用:借地契約が終了し、土地を返還する際の解体費用
特に地代や更新料が払えずに地主とトラブルになるケースが多く見られます。
地代の金額は契約内容や地域によってなりますが、一般的に月額で数万円から数十万円程度です。建物の固定資産税は構造や面積、築年数によって金額が異なり、築年数が経過する毎に安くなっていきます。
借地権更新料の一般的な相場は、借地権価格の3〜10%程度です。借地権価格とは、借地権の評価額のことです。対象の土地の更地価格に借地権割合を乗じて算出します。借地権割合は土地によって決められており、国税庁の財産評価基準書路線価図・評価倍率表で確認できます。
解体費用の目安は以下の通りです。
- 【1坪あたりの解体費用】
-
- 木造:40,000円
- 鉄骨造:60,000円
- 鉄筋コンクリート造:70,000円
将来更地返還しなければならない場合は、毎月積み立てておくことをおすすめします。
なお、地代や更新料を滞納すると契約違反となる恐れがあり、最悪の場合、借地権を失い、土地を明け渡さなければならない事態に陥ります。そのため、費用が支払えない状態になった場合、早期の対応が重要です。
- 地主との交渉(支払い計画の相談)
- 分割払いの提案
- 条件変更の交渉(地代の減額や支払い時期)
- 借地権の売却検討
- 金融機関からの借り入れ
まずは地主と交渉しましょう。交渉が上手くいかず支払いができない場合は、借地権の売却や借り入れ等を考える必要があります。
契約期間が満了し借地の返還を要求される
借地契約の期間満了時に、地主から土地の返還を求められるケースがあります。
定期借地権の場合、契約期間終了後の更新がないため、借地人は建物を撤去して土地を返還する必要があります。普通借地権の場合、正当な事由がなければ更新拒否はできないため、交渉の余地があると考えましょう。
地主との話し合いで、契約延長や新たな条件での再契約を提案することも可能です。また、立退料を求めることも選択肢の一つです。交渉が難航する場合は、弁護士等に相談し、法的手続きも視野に入れて対応することが重要です。
更新後は新法の借地権に変更すると言われる
借地契約の更新時に、地主から「新法の借地権に変更する」と提案されるケースがあります。これは、旧借地権の強い借地人保護から、新法下のより柔軟な契約条件へと変更する目的の提案であることが一般的です。
新法への変更は、借地権人の権利に影響を及ぼす可能性がありますが、必ずしも不利になるとは限りません。
例えば、建物買取請求権が挙げられます。建物買取請求権とは、借地契約期間満了後に地主に対して、建物を時価で買い取るよう請求できる権利です。元々は、更地にして返還しなければならず解体費用がかかっていましたが、建物買取請求権によって費用負担を軽減できます。
そのため、まずは新しい契約内容を見て、自身の権利にどのような影響があるかを確認しましょう。必要に応じて専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
地主から地代や更新料の値上げを要求される
借地契約の更新時や契約の途中段階で、地主から地代や更新料の値上げを要求されることがあります。物価上昇や周辺地域の地価上昇などを理由に行われることが多く、借地人にとっては予期せぬ負担増となります。
対処法としては、まず要求の根拠を確認し、その妥当性を検討しましょう。契約書に地代や更新料改定の条項がある場合、その範囲内であるかを確認します。
次に、地主との交渉です。急激な値上げの場合は、段階的な引き上げや値上げ幅の縮小を提案しましょう。交渉が難航する場合は、調停や訴訟などの法的手段を視野に入れても良いかもしれません。ただし、あくまでも地主との良好な関係維持を念頭に、双方が納得できる解決策を見出すことが望ましいでしょう。
地主から立ち退きを要求される
借地契約の途中や更新時に、地主から突然立ち退きを要求されるケースがあります。一般的には、地主の土地利用計画の変更や、より高い収益を求めて他の用途に転用したいといった理由が挙げられます。
しかし、借地借家法により借地人の権利は保護されており、地主が立ち退きを要求するには「正当事由」が必要です。そのため、まずは立ち退き要求の理由を確認しましょう。正当事由がない場合は、立ち退きに応じる必要はありません。交渉が難航する場合は、弁護士等に相談しましょう。
借地権の売買時に発生しやすい3つのトラブル事例

借地権の売買は、権利関係が複雑であるが故に様々なトラブルが発生する可能性があります。ここからは、借地権の売買時に特によく見られる3つのトラブル事例を紹介します。
- 借地を売却したいが借地契約書を紛失した
- 地主が借地権の売却を認めない
- 地主がローンを認めない
借地権を所有している方にとって、将来の売却に備えて知っておくべき重要な情報となります。具体的なトラブル事例とその対応策について見ていきましょう。
借地を売却したいが借地契約書を紛失した
借地権売却時に借地契約書が手元にないと、借地権の証明や条件の確認が困難になり、売買手続きに支障をきたす可能性があります。
対処法としては、まず地主に連絡し、契約書の写しの有無を確認しましょう。もし地主も契約書を持っていない場合、現在の契約内容を反映した新しい契約書を作成する必要があります。その際、地代の領収書など過去の書類を参考にします。
なお、契約書作成の手続きが必要となるため、専門家を交えて進めるのがおすすめです。
地主が借地権の売却を認めない
借地権の売却には通常、地主の承諾が必要ですが、地主が承諾を拒否するケースがあります。
主な拒否理由は以下の通りです。
- 新借地人とのトラブルを懸念している
- 土地を将来的に自ら使用したいと考えている
- 譲渡承諾料が安いと感じている
対処法としては、まず地主と直接対話し、拒否理由を確認し懸念を払拭する必要があります。また、既に不動産会社などに相談している場合、プロの力を借りるのもおすすめです。不動産会社は豊富な実績があるため、どのように地主と交渉すべきかを熟知しています。
地主がローンを認めない
不動産は高額であるため、購入する買主の多くはローンを利用します。借地権付きの不動産も例外ではありません。
しかし、借地権の場合、ローンを利用するために地主の協力が必要です。その交渉が難航したり、承諾を得られなかったりすると、ローンを組めなくなってしまいます。
このような事態に陥らないためにも、地主との関係性構築が重要です。日頃からコミュニケーションを取るのはもちろんのこと、ローンに関する詳細説明や、地主の立場を理解したうえで交渉しましょう。
また、一括払いが可能な他の資金調達方法も検討する必要があるでしょう。それでも解決しない場合は、不動産会社や弁護士と相談し、法的な観点からアプローチする必要があります。
借地権の相続時に発生しやすい5つのトラブル事例

ここからは、借地権の相続時に発生しやすい5つのトラブル事例を紹介します。
- 相続時に借地の返還を求められる
- 相続時に名義変更料を請求される
- 借地権の相続税が払えない
- 共有名義で借地を相続した
- 借地に建てた家の登記をしていない
借地権を相続する可能性のある方々は、トラブル事例を事前に把握することで、円滑な相続手続きのための準備ができます。また、既に借地権を相続した方にとっても、現在直面している問題の解決策を見出すヒントとなるかもしれません。具体的なトラブル事例とその対応策について、見ていきましょう。
相続時に借地の返還を求められる
借地権相続の際、地主から突然土地の返還を求められるケースがあります。これは、相続のタイミングで契約関係を見直したい地主側の意向によるものです。
しかし、借地借家法により相続人は借地権を継承する権利があるため、正当な事由がない限り、地主の一方的な返還要求に応じる必要はありません。
対処法としては、まずは地主の要求理由を確認したうえで、借地継続の必要性を丁寧に説明し、話し合いで解決を図りましょう。ただし、定期借地権の場合は契約期間満了時に更新されないため、注意が必要です。相続前に契約内容を十分確認しておきましょう。
相続時に名義変更料を請求される
借地権相続の際、借地権の承継に伴う手続きや管理上の変更に対する費用として、地主から名義変更料を請求されるケースがあります。
しかし、法律上、相続による借地権の移転に際して名義変更料を支払う義務はありません。相続による権利移転であり、新たな契約ではないためです。
対処法としては、まず地主に対して、相続による名義変更において料金は不要である旨を説明しましょう。ただし、今後の関係維持のため、実費程度の少額であれば支払う選択肢もあります。その際は、今後の相続時には不要である旨を確認し、書面に残しておきましょう。
借地権の相続税が払えない
借地権の相続税評価額は、相続税路線価を基に算出されます。具体的には、路線価に借地権割合(地域により30%〜90%)を乗じて計算します。この評価額が高額になると、相続税の支払いが困難になるため早めの対処が重要です。
対処法としては、以下の通りです。
- 分割して払う
- 現物で払う
- 資産を売却する
- 借入れを行う
- 相続放棄をする
相続税は現金一括で支払うのが基本ですが、支払えない特別な理由がある場合、延納申請書等を提出することで分割払いが認められるケースがあります。それでも支払えない場合は、借地権の売却や相続放棄を検討しましょう。
共有名義で借地を相続した
複数の相続人が借地権を共有名義で相続した場合、今後の利用や管理において問題が発生する可能性があります。例えば、借地権の売却や建物の建替えなどは、共有者全員の同意が必要となるため、意見の相違が生じやすくなります。
対処法としては、まず共有者間で話し合い、借地権の利用や管理に関する取り決めを行うことです。可能であれば取り決めを書面化し、将来のトラブルを予防しましょう。
また、共有持分の譲渡を行い、単独所有に移行することも可能です。ただし、地主の承諾が必要な場合があります。相続人の間で調整が難しい場合は、弁護士等の専門家に相談しましょう。
借地に建てた家の登記をしていない
借地上の建物を登記せずに相続すると、所有権の証明が困難になり、様々な問題が生じる可能性があります。例えば、相続人の間での権利関係の不明確化、建物の売却や担保設定の際の障害、地主との紛争リスクなどです。
対処法として、まず建物の表題登記を行いましょう。表題登記とは、まだ登記されていない土地や建物を新規に登記することです。表題登記には、建物の図面などが必要となります。古い建物だと書類がない場合もありますが、建築士による現地調査等で対応可能です。
早期に登記を行うことで、将来的なトラブルを防げます。
借地権のその他の5つのトラブル事例

借地権に関するトラブルが発生するのは、更新時や売買時、相続時だけではありません。借地権の性質上、様々な状況で予期せぬ問題が発生する可能性があります。具体的には以下の通りです。
- 底地の地主が変わっていた
- 地主が建物の建て替えを承諾しない
- 借地に建てた家が火事などにより消失した
- 借地に子供の名義で建物を建てたい
- 借地の一部を駐車場として貸し出したい
それぞれのトラブル事例とその解決策について、見ていきましょう。
底地の地主が変わっていた
借地人が気づかないうちに、相続や底地権の売却によって底地(借地権が設定されている土地)の所有者が変わっているケースがあります。底地の地主が変わると、地代の支払い先や契約更新時の交渉相手が不明確になるといった可能性があります。
対処法としては、まず法務局で登記簿を確認し、現在の地主を特定しましょう。新地主の連絡先が不明な場合は、旧地主や不動産業者を通じて情報を得る必要があります。
新地主と連絡が取れたら、現在の契約内容を確認し、必要に応じて新たな覚書を作成します。何から取り組めばいいか不明確な場合は、専門家のアドバイスを受けましょう。早期に新地主との関係を構築することで、将来的なトラブルを防げます。
地主が建物の建て替えを承諾しない
借地上の建物の建て替えを計画しても、地主が承諾しないケースがあります。地主の土地利用計画の変更や、建物の価値上昇により借地人の権利が強くなることへの懸念が主な理由です。
対処法としては、まず地主との対話を通じて、建て替えの必要性と計画の詳細を丁寧に説明しましょう。地主の懸念事項を理解し、それに対応する提案を行うことも有効です。
それでも承諾が得られない場合、建替許可の裁判を検討する必要があります。
借地に建てた家が火事などにより消失した
借地上の建物が火災や自然災害で消失したとしても、借地権は消滅しません。ただし、第三者への対抗力を維持するには、建物の消失から2年以内に再築して登記する必要があります。
また、本来再築には地主の承諾が必要ですが、借地人の生活にとって重要なことであるため、最初の存続期間内であれば承諾なしに再築可能です。ただし、契約更新後の期間に消失した場合、地主の承諾が必要になる場合があります。
再築には期限があるため、保険金などを活用して速やかに再築の計画を立て、必要に応じて地主と協議をしましょう。
借地に子供の名義で建物を建てたい
借地に子供の名義で建物を建てたい場合、問題となるのは借地人と建物所有者が異なることです。
通常、借地人が建物を所有することを前提として契約が結ばれているため、名義変更を行わないまま子供の名義で建築すると、地主から契約違反とみなされるリスクがあります。
このような場合、まず借地契約書を確認し、名義変更が可能かどうかを確認することが重要です。必要であれば、地主に事情を説明し、承諾を得た上で、名義変更の手続きを行いましょう。将来的なトラブルを避けるためにも、契約内容を弁護士や不動産の専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
借地の一部を駐車場として貸し出したい
借地の一部を駐車場として第三者に貸し出したい場合、借地契約の範囲内でその行為が許されているかを確認しましょう。
通常、借地契約は建物を建てることが目的であり、その土地を他人に転貸する行為は契約違反となる可能性があります。無断で駐車場として貸し出すと、地主から契約解除を求められるリスクがあります。
転貸が許される場合でも、地主の承諾が必要なことがほとんどですので、事前に地主と協議し、必要な許可を得ることが大切です。
まとめ
借地権に関するトラブルは、契約更新時、売買時、相続時など様々な場面で発生する可能性があります。これらのトラブルを予防し、適切に対処するためには、借地契約の内容を十分に理解し、法律や権利関係に関する知識を持つことが重要です。
トラブルが発生した際は、冷静に状況を分析し、地主との対話を重視しながら、必要に応じて専門家に相談しましょう。借地人と地主の双方にとって利益のある関係を築くことが重要です。
なお、状況によっては借地権を売却しなければならない場合もあるでしょう。借地権は不動産の中でも権利関係が複雑で、取り扱う不動産会社にも専門性が求められます。訳あり物件買取センターは、不動産の複雑な問題に精通し、お客様の大切な資産を最大限に活かすための最適な解決策をご提供します。専門知識と経験を活かし、スムーズで円満な取引をサポートしますので、安心してご相談ください。